ワニと共存できるかが、問題だ

ケアンズの街は、想像していたよりもずっとこじんまりしていた。10万人ほどの人口だという。街並はとても整備されていて、亜熱帯の気候のせいかリゾート地の雰囲気。特にレース会場に近い海岸線の公園は、誰でも無料で入れるラグーンプールをはじめ遊歩道や自転車専用道路、屋外ジムなんかも設置されていて、運動環境としては抜群だった。さすがオージー文化。
+1時間という日本からの時差も少ないのも身体に負担がない。日差しが出ると暑いが、気候もほどよく快適な感じで、レースコンディションとしては、申し分ないように思えた。良いことづくしなのだが、ひとつだけ気になることが......。
グレートバリアリーフの拠点として名高いケアンズではあるが、街の目の前のビーチは遊泳禁止だ。なんとワニが出るという。注意喚起の看板にも、ワニの絵が鎮座していた。オヨヨ。おまけにサメやクラゲも出るという。立ち寄ったジェラート屋のおばちゃんが、「この海で泳ぐなんて、信じられない!」という反応に、さすがにビビってくる。

レース前々日は、行動を共にしていたLUMINA発行人の松島さんとともに、海岸線をバイクやランコースを試走。しかしここで頑張ってもにわか筋肉がつくわけでもないので、ほんのちょっぴりだけ。レースに備えて体力を温存することに終始した。

レース前日にきめられた時間しか試泳ができないのは、ワニ防止のためか?どうやってワニを阻止しているのかは謎であるが......(汗)こわごわと海に入る。干潮になると干上がるほどの干潟なので、透明度はゼロ。これじゃ、ワニと遭遇しても、逃げようがないではないか。
首尾よくインコースをいったつもりだったが......
不安を抱えながらも、レース当日。IM70.3、プロのウェーブの後、IMディスタンスは1200人の選手が一斉スタート。スイムコースは1.9kmの2周回。反時計回りなので、右オープンの旅烏は、左端からスタートして、インコースを泳ぐことになる。バトルが心配だったが、速い選手に立て続けに抜かされてしまうと、落ち着いて泳げるようになった。アウトコースの選手がかなり奥を泳いでいて、インコースを泳いでいる旅烏は、かなりロスなしで泳げていると得意な気分で2周回目に。途中、顔にピリッとした痛みを感じ、「あ、クラゲにやられた」と思ったが、泳いでいるうちに痛みが消えた。クラゲではなく、プランクトンだったのか、精神的なものだったのか......。身体も動いたし、できるところは前の選手についていってドラフティング作戦でも泳げたので、結構、いいタイムであがれたと思ったのだが、あがってみたら......1時間25分台。かなりガッカリする。ロスなしのコースをとったつもりで、実はかなり蛇行して泳いでいたのかもしれない。
思わぬ誤算
ロングの場合、旅烏は敢えて全着替え。リフレッシュして次の競技にのぞみたいからだ。そのためT1の時間は、たっぷりかかる。トホホ。
バイクに入った頃は、薄曇りで、脚も軽やかで、かなりスピードを出す。空港の先のロータリーのところで、前のバイクジャージの選手について行ったら、まったく選手がいなくなってしまった。これはおかしいと、そのバイクジャージの人に追いついて聞くと、その人は、選手ではなく、70.3の選手を応援に行くという。う〜む、なんとも紛らわしい。あわててコースに戻った。でもこのハプニングの時は、まだまだ元気だったので、それくらいのロスは気にならなかった。

しかし50キロを超えたくらいから調子がおかしくなってきた。太陽が顔を覗かせ、日差しが強くなってくる。身体全体がだるさを感じ、思うようにバイクをこげない。まだ半分も行っていないのに、DHポジションをし続けると、大殿筋の上の方が痛くてたまらない。おまけに甘いものを受付けなくなってしまった。バイクの前のジェットストリームのボトルの中に、パワージェルの梅味と練り梅チューブをまぜた特製パワージュースが入っているのだが、それを口に含むと、気持ちが悪くなる。エイドでもらうスポーツドリンクもダメ。しかたなくエイドの水とボトルに入れていたウーロン茶で、なんとか前進する。

バイクの上から見る風景は、それは美しい。右側には、真っ青な海原が見え、左側には、垂れ下がった雲間から緑色濃い山が迫っていた。調子がよければ、もっとこの景色を楽しむ余裕があるのだが......。その時の旅烏は、ひたすら苦しさを紛らわすことしか考えられなかった。
調子はよくないものの、アプダウンを繰り返しながらも、平均速度は35km/hで、それほど遅くない。しかし、折り返したとたん、まったく進まなくなる。追い風だったことに気づくのは、いつも向かい風になった瞬間だ。自分の実力を過信していることを、なぜ気づかぬ旅烏。
あまりにだるくて辛いので、次のエイドで下車。熱中症気味だと感じたので、塩サプリを飲んで、尻のストレッチ。そうすると、また少し集中して、遅いながらも前に進むことができた。それ以降は、エイドごとに降りて、水をかぶり、尻のストレッチをすることにした。
海岸線のアップダウンの部分を2周回するので、1週回目の向かい風の箇所では、バイクを終えられるかどうか不安だった。90キロの表示を見た時は、「え、まだ半分もあるの」という感じだった。

2周目の向かい風は、ゴールまでずっと続く。ひたすら我慢の連続だった。エイドで休んで、またDHポジションで進む。その繰り返しで、騙しだまし距離を稼ぐ。つけていたガーミンの表示は「170キロ」を示していた。あと10キロもあると、泣きそうになった時、なぜかバイクフィニッシュ地点についた。どうもバイクスタートから10キロほど、ガーミンが認識しなかったみたいだ。嬉しい誤算だった。
空港の脇あたりの道路は、まったく応援もいなくて、街灯もなく、どこを走っているのかさえわからないくらいだったが、公園を抜けて、ケアンズの街に入ると、一挙に応援が増える。特にフィニッシュ会場に近いエスプラネード通りでは、歓声で溢れる大観衆の長い列が繋がっている。実は、ランコース、ちょっと意地悪にできている。フィニッシュ地点を通り過ぎた後、桟橋の先まで走った後で折り返し、また同じ道を戻って、大声援を再び浴びて、公園を抜けて折り返す。この周回を2周回しないと、フィニッシュゲートの方にいけないのだ。子どもから大人までみな手を出していて、その手にハイタッチしながら、もうフィニッシュするかの様に盛り上がったのに、計5回も、大声援の前を「すいません、まだ走らないといけないんです」とそそくさとその場を後にしないといけないのである。しかしこの応援のおかげで、かなり疲弊していて、いつ失速してもおかしくなかったのだが、最後までほぼイーブンペースを保つことができた。

「今度が本当に最後です」
そんな気分で、大観衆の列の中をハイタッチしながら駆け抜ける。フィニッシュゲートまでの最後の直線に入った。旅烏の前には、選手もいなくて、赤絨毯の先にゴールの光が見えた。沿道の人たちと、ハイタッチをして、フィニッシュラインを踏んだ。メダルをかけてくれたのは、IMケアンズ70.3優勝者のCOURTNEY ATKINSON だった。

スイムはイマイチのタイムで、バイクもあまり調子はよくなかったが、ランは走り切った満足感はあった。タイム的にはバイクは7時間切りできたし、ランも5時間切りができ、13時間台でフィニッシュできたのは、旅烏的には大きな成果だと思う。しかしこのタイムだと、後ろから3分1くらいの順位。やはりオージーの大会はレベルが高い。
いろいろと課題もあるが、五島のIMジャパンで出したIMディスタンスのPBを更新することもできたので、旅烏的には頑張った方だと思う。

あれから選手がワニに遭遇したという話は、聞いていない。レースの最中は、あの透明度ゼロの棲息地でトライアスリートと共存できたようだ。どうやってワニを防止しているのかは、まだ謎のままである。
※旅烏の詳細なリザルトは、こちら→http://www.multisportaustralia.com.au/Home/IndividualResult?clientId=1&raceId=897&eventId=1&athleteId=267015
(SHOW SPLITをクリックすると、詳細なスプリットがわかります)
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